「英語を速読する方法は?」と数え切れないくらい質問されてきた。答えはいつも同じで、「あなたは速読するとスコアが下がるので、精読してください」だ。英文の構造を正しくつかむ力が備わっていない人ほど安易に速読を求めがちだが、それは「ゆっくり読むことすらできない」ことを意味するので、「速く読む資格がない」と言っても過言ではない。
こういう当たり前のことを言うと怒られることがあるので、もう少し説明したい。立場を変えて考えてみよう。日本語を学んでいる外国人が、日本語の試験でスコアを上げたいとする。語彙力も、文法力も、文構造をつかむ力もまだ低いとする。その人に「速読しろ」と助言するだろうか。しないはずだ。読書が大好きなら話は別だが、「正解を選ぶ」というタスクを課せられる試験で成功するには、ゆっくりだとしても正確に読む練習を優先するべきだからだ。そして、正確に読む力を上げた後で、読むスピードを上げるのは比較的楽だからだ。
立場を元に戻そう。英語を学ぶ日本人が、TOEICという試験で成功したければ優先すべきは正確性であり、スピードではない。特に、多くの受験者が「時間切れ」となるリーディングセクションでスコアを上げたければ、なおさら正確性を重視したトレーニングに取り組むべきだ。(スピードを上げる努力をするなと言っているのではない。正確に読む力を伸ばした後で、速く読む練習をすればいい)
試験中、理解度を試す問いに答え続ける必要がある以上、理解を犠牲にする速読は「最後の悪あがき」程度の役割しかない。本質的にスコアを稼ぐのは精読(正確な読み)であり、理想を言えば「速めの精読」である。
これまでに無数のTOEIC対策本が世に出たが、その多くは問題演習が中心であり、英語の精読を深く掘り下げた本は無かったように思う。これは「時間切れ」を嘆く受験者の表面的なニーズを満たすことを出版社・著者が優先してきた結果ではないだろうか。
ところが、『TOEIC L&Rテスト リーディング精読講義』が出版された。しかも、あの薬袋善郎先生の本だ。TOEIC受験者に「あなたは速読するとスコアが下がるので、精読してください」と20年間言い続けてきたので、勝手に意見を言うことにした。
精読の練習をしたいと思ったことがある人や、そもそも精読とは何かを知りたい人に手元に置いてほしい本だ。模試が好きな人や、単語の暗記こそ全てだと思っている人、特に中級レベルの人は、英文を緻密に分析する手法にとっつきにくさを感じるかもしれない。しかし、精読に興味があり、「フィーリングで読む自分」にサヨナラしたければ、一度、薬袋先生の最新刊をチェックしてみるといい。(ヒロ前田)